SDGsの目標3は「すべての人に健康と福祉を」です。
他のSDGsの目標も同様ですが、世界中の人が平等に豊かになるために必要な目標であり、実現したら素晴らしいことだとはわかっていても、具体的に何をしたらいいのか、どんなことが求められているのかはわからない、という人も多いのではないでしょうか。
今回は「すべての人に健康と福祉を」の目標が生まれた背景となる世界の実情から、実際におこなわれている施策までご紹介します。
目次
SDGsとは「持続可能な開発目標」
「持続的な開発目標」=Sustainable Development Goalsの略であるSDGsとは何なのか、基本を簡単におさらいしておきましょう。
「誰一人取り残さない」社会の実現
SDGsは「誰一人取り残さない」をスローガンとし、地球上のすべての人が豊かになり、社会が繁栄することを目指しています。
世界各国でいまだ問題となっている貧富の差や、課題とされつつも未だに大きな改善が為されていない地球環境問題に対し、国連加盟国総員で2016年から2030年までの15年間で集中して取り組むことを宣言しました。世界共通で取り組み、真に「誰一人取り残さない」世界を実現するための取り組みです。
国連では進捗状況を確認
SDGsの達成に向けて、国連では進捗状況を確認しています。
具体的には国連広報センターによる報告や、国連ハイレベル政策フォーラム(HLPF)という各国が自分たちの進捗状況を報告する枠組み、潘基文元国連事務総長が立ち上げたNPO団体によるSustainable Development Reportが進捗状況を公開しているので、チェックしてみましょう。
SDGsのgoal 3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット
「すべての人に健康と福祉を」のターゲットは、9つの達成目標と4つの実現方法が設定されています。外務省ホームページにある国連アジェンダの翻訳から抜粋しました(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf)。達成目標を見ると、SDGsのゴール3が設定された背景にある世界の諸問題が浮き彫りになります。
9つの達成目標
3-1:2030年までに世界の妊産婦の死亡率を削減する。
3-2:すべての国が新生児死亡率を減らすことを目指し、2030年までに新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
3-3:2030年までに世界各地にはびこる伝染病を根絶するとともに肝炎、その他の感染症にも対処する。
3-4:2030年までに非感染性疾患による若年死亡率を減少させ、精神保健及び福祉を促進する。
3-5:薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
3-6:2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
3-7:2030年までに、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるようにする。
3-8:すべての人々に対するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。
3-9:2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
3-1については出生10万人当たり70人未満に、3-2については新生児の死亡率を出生1,000件中12件以下、5歳以下死亡率を出生1,000件中25件以下まで減らす、という具体的な数値も設定されています。これらの達成目標から、世界ではいまだに生まれてきても環境が整わないために多くの命が失われているという現状が見えてくるでしょう。
国や地域によってはエイズやマラリアといった伝染病に苦しむ人も多く、必要な医療機関が整っていないところもあります。そうした環境を改善するためには医療関連の強化だけでなく、3-9のような環境改善も必要となってくるでしょう。
日本でも無縁ではない目標としては、3-5の薬物乱用・アルコール過剰摂取の防止や3-6の交通事故による死傷者の減少、3-7の保健サービスの利用があげられます。
4つの実現方法
3-a:すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を強化する。
3-b:主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。
3-c:開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
3-d:すべての国々の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。
9つの達成目標を実現するためには、3-aのように具体的な条約の強化や、3-bのように医薬品の研究開発、必要としている人への提供が求められています。ただし提供するだけでは「持続可能な開発目標」の達成にはならないでしょう。
各国が自力で継続していく力をつけられるよう、3-cのように開発途上国での能力開発、3-dのように世界全体で健康危険因子の管理能力強化も具体的な施策として有効とされているようです。
SDGs「すべての人に健康と福祉を」の現状は?
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の現状はどうなっているのでしょうか。
世界諸国に起きている課題
2018年、5歳未満で亡くなる子どもの数は世界全体で約530万人というデータが出ています。6秒に1人は世界のどこかで子どもが命を落としているということです。特にアフリカなど、感染症などの予防対策が不十分な地域で多く、その数はヨーロッパの約15倍ともいわれています。
出産時のみならず妊娠中に亡くなってしまう女性も少なくありません。実は性に関する正しい教育がなされていないために、若い女性が望まぬ妊娠により命を落としているという現状も世界には多いのです。
コロナの影響で医療は後退の可能性も?
多くの保健分野は改善が見られるようになりましたが、2020年の新型コロナウイルスの影響によりさらなる加速が求められています。新型コロナウイルスの影響で医療が混乱し、この数十年で進歩してきたことが後退してしまうおそれが出てきました。
およそ70か国で子どもの予防接種が中止されており、マラリアなどの感染症が発生しやすい地域の医療サービスもストップしてしまったのです。国連の報告によると、今後マラリアによる死者は100%増大する見込みとされています。
具体的に必要な取り組み
現状を改善するためには、前述した9つの達成目標を実現するための4つの行動が必要となるでしょう。もっと身近でできる具体的なことは、健康に関する知識をきちんと身につけること、そして何より自身がしっかりと予防に努めることです。
普段から手洗い・うがいを心がけ、健康的な体を保ち免疫力を高めることで、病気の流行を抑えることにつながります。小さなできることからはじめてみましょう。
目標3に対する日本の取り組み事例
目標3を達成するために、日本で実際におこなわれている事例をご紹介します。
住友化学株式会社
住友化学株式会社はマラリアなどの昆虫が媒介する伝染病をなくすために、長期残効型蚊帳を開発し、地元の人々を伝染病から守っているほか、デング熱やジカ熱などの蚊が媒介する病気を防ぐために、殺虫剤の開発もおこなっています。
NEC(日本電気株式会社)
NECは一見、医療分野と直接かかわる企業には思われないかもしれません。しかしNECでは途上国でワクチンが不足している現状を「誰が」「いつ」「どのワクチンを接種したか」が明確になっていないことが原因と考えました。そこでワクチンの接種状況を指紋認証で記録し、履歴管理をおこなえるサービス開発を進めています。
母子手帳が世界で活躍
日本では当たり前のようにある母子手帳ですが、実はSDGsの目標3を達成するために世界で活躍しています。2008年にパレスチナで世界初のアラビア語版母子手帳が誕生しました。
母子手帳の母と子の健康維持を記録する機能が役立っており、難民となった親子が避難先でも継続して医療サービスを受けることができたり、これまで通っていた保健所や病院に通えなくなっても新しい場所で予防接種や乳児検診を受けることができたりするようになったのです。
現地では「生命(いのち)のパスポート」とよばれています。
まとめ
目標3「すべての人に健康と福祉を」についてまとめました。2020年のコロナ禍によって新たな課題は浮上しているものの、目標3は比較的進展も見られ、具体的に何をすべきかが明確な目標といえるかもしれません。
日本は保健分野においては世界をけん引する国のひとつです。目標達成のための施策を打ち出すことが期待されています。他にも自分自身が感染症対策をしっかりおこなうこと、命を大切にすることが、目標3の達成に必要なことでしょう。是非、自分のできることから少しずつはじめてみてくださいね。