SDGsの目標6は、「安全な水とトイレを世界中に」です。
日本ではあまり実感がわかない問題かもしれませんが、世界の水とトイレ環境はSDGsの目標になるほど問題となっています。
SDGsの目標6の背景にはどのような課題があるのか、それに対して企業がどのような取り組みをおこなっているのかをご紹介します。何ができるのかを考えるきっかけにしてみてください。
目次
SDGsとは何か?
はじめにSDGsの基本的な知識を確認しておきましょう。
世界の共通目標
Sustainable Development Goalsの頭文字をとった略称であるSDGsは、「持続可能な開発目標」という意味です。国連加盟国が2016年から2030年までの15年間で達成するべきとされている17の目標で、いわば世界の共通目標といえます。
世界の諸問題が背景にある
SDGsで設定されている17の目標が掲げられた背景には、世界で起きている諸問題があります。
1から6は貧困や教育環境、ジェンダー差別といった発展途上国に多い課題、7から12はエネルギー問題や労働問題、まちづくりといった先進国に必要とされる課題、12から17は発展途上国も先進国も関係ない、気候変動や海や陸の豊かさ、平和やグローバル・パートナーといった課題に焦点をあてています。
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」
目標6を達成するために、さらに詳しく設定された目標や、そのために必要な行動も国連によって定められています。外務省のホームページに国連の定めるアジェンダの翻訳が載っているので、抜粋しました。
6つの達成目標
6-1:2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する。
外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf)
6-2:2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。
6-3:2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物質や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加させることにより、水質を改善する。
6-4:2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。
6-5:2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。
6-6:2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う。
発展途上国と先進国では、水に対する課題が違います。発展途上国では水の衛生状態が整っていないことが、先進国では産業廃棄物による水質汚染が起きていることが主な課題として挙げられるでしょう。
水は人の体の60~70%を構成する大切な資源であり、体に入る水の質を整えていくことはすべての人の健康にかかわることです。そのため達成目標には、すべての人が平等に安全な水を得られる環境を整えること、有害な化学物質の削減をすること、双方の取り組みが設定されています。水質を改善する技術の活用はもちろんのこと、環境保全も関連しているのがわかるでしょう。
6-2の目標設定は、設備の整っている日本ではピンとこないかもしれません。世界では安全な水を得られる施設が限られている地域もあり、居住地から遠く離れた施設へ水汲みにいくのは女性や子どもといった社会的に弱い立場にある人たちです。
水汲みの仕事のために、もっと収入の得られる仕事に就けずにいるというケースも少なくありません。また難民キャンプなどトイレ環境の整っていない場所は治安も悪く、女性や子どもが暴力を受ける要因のひとつになっています。
目標を達成するための行動2つ
6-a:2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。
外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf)
6-b:水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。
期待されている具体的な行動として、先進国が持っている水質改善の技術を開発途上国に提供することが挙げられています。加えて水の管理向上のためのコミュニティ強化も具体的な行動に挙げられており、水の問題をクリアにするためには、地球上のすべての人が助け合うことが重要視されているのです。
SDGs目標6の実態
SDGs目標6が設定された背景となる世界の諸問題にはどのようなものがあり、2021年現在での実態はどうなっているのかをまとめました。
世界人口の3分の1が安全な飲み水をつかえない
SDGsでは水道のパイプで管理されている水を「安全な水」と定義しており、そのうえで安全な飲み水をつかえない人は約22億人、世界人口の約3分の1だといわれています。当たり前のように水道水をそのまま飲むことができる日本では想像もつかないかもしれません。
参照:ユニセフWHO
また同じく水を必要とするトイレを安全につかえない人はさらに多く、約42億人と推定されています。安全なトイレをつかえない不衛生な環境は、感染症を発生させるなど人の健康に大きな影響を与え、特に小さな子どもの場合は命を落とすことにもなりかねません。世界の約半分の人がそのような危険にさらされているということです。
2020年も依然として大きな進展はない
2015年にSDGsが採択されて5年が経過した2020年、国連の発表によると目標6の達成に向けて大幅な進展は見られません。依然として世界の3分の1の人は安全な飲み水を確保できず、半数の人は安全にトイレをつかうことができていないそうです。
国によっては、そうした環境を整えるための資金が61%不足しているともいわれ、現状改善もままならない状態が続いています。新型コロナウイルスの感染を防ぐために有効とされている手洗い・うがいすらできないという人の数は、約30億人にものぼるという結果になりました。
日本も例外ではない!水不足
日本では安全に水がつかえているので、水問題とは無縁に感じるかもしれません。しかし地球温暖化や経済の活性化、人口の増加によって将来的に水は不足すると予測されています。
国連の報告によると、2030年までには世界の7億人が水不足によって住む場所を追われるおそれがあり、2050年には4人に1人が水不足になるとまでいわれているのです。
SDGs目標6を達成するために
SDGsの目標6を達成するためにできることは何でしょうか。国連の定める達成目標に加えて、身近でできることをまとめてみました。
水の大切さを知る
まずは世界的に水不足になるおそれがあるという現状、水の大切さについて知ることが重要です。
たとえば牛肉1㎏を生産するために、2,000リットルの水がつかわれていることをご存知でしょうか。水は家畜を飼育するためにも大量に必要なのです。もちろん水は人の生活に必要不可欠ですから、普段の生活の中でも様々な場所でつかわれています。
そのひとつひとつどれくらいの水をつかっているのかを意識したことはあるでしょうか。少しでも意識すると、意外なところで無駄遣いしていることに気づけるはずです。
環境保全
水は海水が蒸発し、雲から雨となって大地に染み込み、地下水や湧き水から川となって再び海に戻る、という循環を繰り返しています。海水が汚れていたり水が染み込む大地が汚染されていたりすると、当然循環する水も汚れてしまうでしょう。きれいな水が循環していくためには、自然環境を守っていくことも重要な課題のひとつとなっています。
包括的アプローチ
目標6の達成には、他のSDGsの目標達成も大きくかかわってきます。
上述したように自然環境を守ることは目標14「海の豊かさを守ろう」目標15「陸の豊かさも守ろう」が関係してきます。水の衛生環境を整えることは目標3「すべての人に健康と福祉を」にもつながりますし、水施設を整えて女性が危険にさらされることをなくすことは目標5「ジェンダー平等を実現しよう」につながります。
目標6を達成するためには、他の目標も巻き込んだ包括的なアプローチが必要となるでしょう。
SDGs目標6を達成するための取り組み
SDGsの目標6を達成する、世界の水問題を解決するために実際におこなわれている取り組みをご紹介しましょう。
日本の技術が世界の水不足を解決!
厚生労働省の発表によると、2018年時点での日本の上水道普及率は約98%と、全世界でもトップクラスに入ります。
日本には水の豊かさを実現する様々な技術があり、中でも海水をろ過して飲み水に変える海水淡水化技術はアメリカや中東、アフリカといった海外でも活用されており、1日あたり6,000万トンの真水を生産しているそうです。
また、低コストで下水から飲み水をつくれる浄化処理技術のおかげで、中東地域では下水の約80%が再利用されるようになりました。
日本の政府開発援助ODAは水道分野の専門家を開発途上国に派遣したり、研修生を受け入れたりといった取り組みもおこなっています。
ウォーターエイド
ウォーターエイドは1981年にイギリスで発足した、水・衛生分野に特化した国際NGOです。従来、世界中の国と地域に安全な水と衛生環境を提供することに従事してきた団体で、その活動は2015年のSDGsの採択よりはるかに昔から取り組みを続けています。
サントリーホールディングス株式会社
「南アルプスの天然水」の生産で有名なサントリーは、天然水の源である水をはぐくむ森を「サントリー天然水の森」と名付けて、森を守る活動をおこなっています。
南アルプスの天然水を生産している工場では節水に取り組み、水を可能な限り再利用することに努めているほか、工場でつかえなくなった水も浄化し、きれいな水を自然に戻す取り組みも実施中です。
まとめ
SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」の意味や世界的な課題、解決策についてまとめました。
世界ではまだまだ安全な水とトイレがいきわたっていない現状があるばかりか、今のままでは将来的に水不足が加速することも予想されています。そうした中で、すでに十分に豊かな水を得られる環境にある日本をはじめとする国や団体が、貴重な技術や資金を必要としている国や地域に提供していくことが、目標6を達成することにつながるでしょう。
たとえ大きなことはできなくても、水の現状をきちんと知ることや普段の生活で節水を心がけるといった小さなことからでも、水不足の加速を押しとどめることにつながります。できることから少しずつ、世界のためになることを始めてみませんか。