SDGs(Sustainable Development Goals)とは、17の目標と169のターゲットから構成された持続可能な開発目標です。ミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年の国連サミットで採択されました。
2030年を年限に各国さまざまな取り組みが行われる中、スポーツも目標達成に必要不可欠とされています。SDGsにおいてスポーツはどのような役割を担っているのでしょうか。
そこで本記事では、SDGsとスポーツの関係性やスポーツSDGsの取り組み、日本の取り組み事例について紹介します。
目次
SDGsとスポーツの関係性とは?
2000年にMDGsが掲げた国際社会共通の8つの目標は、2015年の達成期限までに一定の成果をあげました。達成の背景にはそれぞれの目標に対してスポーツが重要な役割を果たしており、国連やその他の総会決議でも認識されています。
このことから、後継であるSDGsの持続可能な開発目標においても、スポーツは重要なツールとして位置づけられているのです。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている17の目標に、スポーツは潜在的能力を発揮しており、来る2030年の実現へ期待が寄せられています。
例えばSDGsの目標とスポーツとの関連性をあげると、目標3「すべての人に健康と福祉を」では、スポーツをすることで精神や身体に良い影響を与え、健康問題の解決につながります。他に目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、スポーツを通して意識を変化させていくことができるとされています。
SDGsの17項目とスポーツ
それではここから、スポーツが実際にSDGsの17項目とどのように関連しているのか、より詳しく見ていきましょう。
目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
スポーツをすることで、人とのかかわりや幸福感を得たり、経済社会への参加につながります。スポーツは、雇用を生み出します。スポーツを実施することも、観戦することも、絶大な経済効果を発揮します。
目標2:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
スポーツでの体づくりのために、栄養に関する知識や栄養補給は大切です。そのための教育を通して、持続可能な食料生産や栄養に関する知識の普及活動を推進することができます。
目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
前述したとおり、スポーツを通して健康的な肉体や精神が育まれます。病気にかかりにくい体づくり、健康・性に対する問題への教育ツールとしてスポーツは役立ちます。
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
学校内での体育の授業やスポーツ活動は、児童の就学率や出席率および成績の向上につながります。またスポーツを通して、学習の機会を得て、社会生活で応用できるスキルを身に着けることも期待できます。
目標5:ジェンダーの平等を達成し、全ての女性と女児のエンパワーメントを図る
ジェンダーに対する意識改革は、スポーツを通して行うことで推進することが可能です。
目標6:すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
スポーツ活動には、水分補給は必須の行いです。そのため、安全で清潔な水やそれを供給するためのシステムについての教育の機会が生まれます。
目標7:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
スポーツを行うためには、夜間の電灯や電光掲示板など様々面で、エネルギーが必要です。スポーツ活動で、持続可能なエネルギーや省エネに関して教育したり、問題の改善につながります。
目標8:すべての人々のための持続的・包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセントワークを推進する
野球やバスケットを代表とするスポーツ産業や事業、職業訓練は、社会的に弱い立場にある女性や障害者などの雇用機会を生み出します。
目標9:レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともにイノベーションの拡大を図る
災害に強いスポーツ・娯楽施設の建設は、強靭なインフラの整備に関係しています。
目標10:国内および国家間の不平等を是正する
開発途上の国々でのスポーツの振興と開発は、先進国と途上国の間の格差是正に効果があります。スポーツは世界共通で好まれ、人気があるため、不平等解決への有効なツールです。
目標11:都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
スポーツを通して、社会的に弱い立場にある人々をも含め市民ひとりひとりが参加する機会をもつことができます。誰でも気軽に利用できるスポーツ施設やサービスの充実が望まれます。
目標12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する
持続可能な基準をスポーツ用品の生産と提供に採用することで、持続可能な社会に貢献できます。またスポーツ用品やイベントを活用し、メッセージの発信をすることができます。
目標13:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策をとる
環境の持続可能性についての知識の普及やメッセージを、大型スポーツのイベントやプログラムを通して広めることができます。
目標14:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
海の環境とボートなどの水上競技を関連させることで、海洋環境の保護と持続可能な利用をアピールすることができます。
目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
陸上に生きる生物や植物についての教育を、スポーツを通して行うことが可能です。
目標16:持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
災害後に復興する際や戦争後の精神的な支えとして、スポーツはその役割を果たすことができます。分裂したコミュニティ間で、スポーツを行うことでお互いを理解し、和解へなどに役立ちます。
目標17:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバルパートナーシップを活性化する。
スポーツを持続可能な開発のための共通の目的とすることで、その目的のために官民や企業、NGOなど垣根を超えた様々なパートナー、ステークホルダーとの連携とつながりを持つことができます。
以上のように国連では、スポーツがSDGsの17項目それぞれに取り組むための重要なツールとして期待を寄せています。
SDGs達成に向けたスポーツ庁開設
日本では「スポーツを通じて『国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む』ことができる社会の実現」を目指し、2015年に文部科学省の外局としてスポーツ庁が新たに設置されました。
もともと文部科学省では、学校の体育や武道・地域スポーツの推進を行っており、その事業を受け継ぎながら、スポーツに関連する様々な施策を総合的に推し進めています。
SDGsの目標実現に関しては、SDGsの認知度向上や社会におけるスポーツの価値のさらなる向上にスポーツで貢献することを宣言しています。
スポーツSDGsの取り組み
続いて、スポーツの世界で取り組まれているSDGsについて見ていきましょう。
世界の課題をスポーツで解決「Our Global Goals」
スポーツ庁とビル&メリンダ・ゲイツ財団は、スポーツを活用してSDGsの達成を目指すため、パートナーシップを締結しました。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けてスポーツに注目する人々が増えている中、この機会にスポーツSDGsにも関心を持ってもらうことが狙いです。
同財団は、スポーツを通して社会課題と向き合う「Our Global Goals」というプロジェクトを行っており、スポーツ庁の掲げるスポーツSDGsの理念にも一致しています。スポーツSDGsの取り組みの一環として広報を行い、ムーブメントの高まりに繋げていくことが今後重要となるでしょう。
またこの取り組みは多くのアスリートにも呼び掛けており、賛同の声が広がっています。
設備や環境の再利用「オリンピックレガシー」
環境問題やサステナビリティの観点から、2020東京オリンピックでは、オリンピックレガシーに対する取り組みが行われています。たとえば「開催するにあたり作られた施設や設備が、イベント終了後も有効に再利用できるか」という考え方がオリンピックレガシーです。
IOCでも「オリンピック競技大会のよい遺産を、開催国と開催都市に残すことを推進すること」と明記しています。よい遺産(レガシー)は、「スポーツ」「社会」「環境」「都市」「経済」の5分野で考えられ、持続可能な効果と発展を目指すのが目的です。
開発と平和のためのスポーツ国際デー
国連により4月6日は、「開発と平和のためのスポーツ国際デー」として規定されています。この日に定められた理由は、1896年の4月6日は近代オリンピックが開催された日だからです。
平成30年度にスポーツ庁では、スポーツの振興と平和への願いを込めて、有森裕子さんらによるビデオメッセージを配信しています。
SNSによる積極的な情報発信
スポーツ庁はスポーツSDGsを広めるために、SNSによる積極的な情報発信も行っています。共通のハッシュタグは「#SportsSDGs」です。
スポーツSDGsには、スポーツが持つ人を集める力や巻き込む力を利用して「SDGsの認知度向上」「スポーツの力を活用した社会課題の解決」という願いが込められています。ハッシュタグを利用する人が増えれば、より多くの人に届き、SDGsへの関心が高まることが期待されるでしょう。
開発と平和のためのスポーツの国際デーの制定
4月6日は「開発と平和のためのスポーツの国際デー」の記念日です。スポーツが平和と開発を促してきたことや寛容と相互理解を育んできたことに着目し、近代オリンピックが初めて開催された日に制定されました。
平成30年度は、鈴木スポーツ庁長官をはじめとしたアスリートや著名人から、SDGs達成へのスポーツによる貢献を動画メッセージに込めて配信しています。
日本のスポーツによるSDGsの取り組み事例
ここでは、日本のスポーツにおけるSDGs活動の取り組み事例を2つ紹介します。
スポーツを通じてSDGsに取り組む「ミズノ」
ミズノは「子どもたちの運動能力と体力の向上」「スポーツを通じた健康寿命の延伸」「スポーツへのアクセスの向上と地域スポーツの振興支援」を重要課題として、スポーツ振興に尽力しています。幅広い事業展開でSDGsに取り組み、一人ひとりが輝けるサステナブルな社会の実現を目指し活動中です。
退院復学を支援する「Bリーグ」
日本のプロバスケットボールリーグであるBリーグは、社会的責任活動をB.LEAGUE Hopeと称し「Planet」「Peace」「People」の3つの領域でSDGsの課題と向き合っています。長期療養を必要とするこどもの復学支援「TEAMMATES事業」や災害復興支援活動など、さまざまな取り組みを実施し、Social Innovationの実現に貢献しているのです。
まとめ
SDGsの目標実現には、スポーツの持つ潜在的能力が重要です。スポーツ庁は、スポーツで「人生が変わる」「社会を変える」「世界とつながる」「未来を創る」の4つの指針を示しており、いずれもSDGsに共通しているといえるでしょう。
スポーツは人種や性別、経済格差など関係なく誰でも楽しむことができ、そして国境を越えてつながることができます。私たちの暮らしに身近なスポーツで社会貢献できるのであれば「持続可能な社会の実現」はそう遠くない未来かもしれません。スポーツの力でSDGsの目標達成を目指し、次世代の豊かな未来をつくりましょう。