SDGsにかかわる取り組みをしていると、SDGsウォッシュという言葉を聞くことがあるでしょう。
SDGsの価値観を正しく広め、企業の信頼性を保っていく上でも、SDGsウォッシュと呼ばれるような事態は避けたいところです。SDGsウォッシュとは何なのか、SDGsウォッシュと言われないようにするためにどうしたらいいのか、この記事では実例を挙げてご紹介します。
目次
SDGsとは
最初に、SDGsについて基本的な知識を確認しておきましょう。
世界の共通目標
SDGsは2015年に国連が定めた、世界の共通目標です。世界各国で起きている諸問題に対する解決を17のゴールに定め、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指してつくられました。
ゴールの大半は多くの人にとって、今までわかってはいたけれど向き合ってこなかった問題です。2030年までにすべてのゴールを達成することを掲げ、世界各国ではもちろん、日本でも数々の企業や団体がSDGs達成のために動き始めています。
サステナブルに配慮
実はSDGsの前身として、2000年にはMDGs(Millennium Development Goals)が採択されていました。
きっかけをつくったのは、当時の国連事務総長コフィ・アナン氏です。アナン氏は世界で貧富の差が拡大していることや、児童労働問題が顕在化していることを憂いていました。経営者が集まるダボス会議に乗り込み、問題の解決に必要な価値観を企業の活動に取り入れるべきだと主張したのです。
MDGsはSDGsと同じように世界の諸問題を解決するための8つの開発目標で、2015年には一定の成果が出たとされています。そこに新たにサステナビリティの概念を取り入れたSDGs(Sustainable Development Goals)が新たに提案されました。
SDGsの採択によって「サステナブル=持続可能」であること、という価値観が認識されはじめたため、2015年はサステナブル元年とも言われています。
SDGsウォッシュとは何か?
SDGsウォッシュという言葉にはどのような意味があり、なぜSDGsウォッシュと言われることが問題なのでしょうか。
語源は「ホワイトウォッシュ」
SDGsウォッシュの語源は、「白塗り、うわべを飾る」という意味のホワイトウォッシュ(Whitewash)です。
環境問題への関心が高まった1990年頃、「環境に優しい」「エコ」といった表現を使っていながら、実態は環境に配慮できていなかったり、全く異なる取り組みを主張したりする企業が出始めました。そうした企業を指して、「環境に配慮する」意味をもつグリーンと「うわべを飾る」という意味を持つホワイトウォッシュを組み合わせた「グリーンウォッシュ」という造語が生まれたと言われています。
SDGsウォッシュも同様に、SDGsの取り組みをしていないのに消費者へのアピールだけを目的にSDGsの名前を使うことを指しているのです。
信頼性を失うことに
SDGsウォッシュの最大の問題点は、SDGsウォッシュとみなされることで信頼性を失ってしまうことにあります。
SDGsは地球上のすべての人が豊かになるための開発目標です。SDGsとは全く関係のない取り組みにもかかわらずSDGsに関連する取り組みとしてアピールすることは、消費者を欺く行為であるだけでなく、SDGsの意味や価値を正しく認知することを妨害する行為とも言えます。
SDGsの理念に共感し、本気で貢献したいと思った消費者にとっては、騙されたと感じてしまうのも無理はありません。もちろん本気でSDGsに取り組んでいる他企業から見ても気持ちのいいものではないでしょう。このように、SDGsウォッシュとみなされるということは、企業理念に問題があると判断されることにもつながり、世間から信頼を損なう可能性は高くなります。
SDGsウォッシュといわれる取り組みの特徴
「これがSDGsウォッシュだ」というような明確な定義はありません。だからこそ、気づかないうちにSDGsウォッシュとみなされてしまっているということもあります。
主にSDGsウォッシュとみなされる代表的な行為をご紹介しましょう。
実際の取り組み内容と矛盾している
最もわかりやすいのが、紐づけている17の目標と取り組みの内容が一致していないというケースです。
多く見られるのが「アピールのために既存の取り組みに対して17の目標を貼り付けただけ」というパターンで、意図的におこなっているとしたら悪質だと言わざるを得ません。
持続できない
自社の取り組みに17の目標を紐づけてみたものの、そこから先に進んでいないというケースもSDGsウォッシュとみなされる可能性が高いケースでしょう。つまり「持続可能な開発目標」であるのにもかかわらず、「持続できていない」という状態です。
決して意図的ではなく、「17の目標のアイコンを取り付けただけでSDGsに取り組んだような気になってしまっている」「目標を貼り付けてみてはいいもののその先どうしたらいいのかわからない」などの理由で持続できていないことが多く、SDGsに対する理解が甘い企業が陥りがちなパターンでしょう。
2015年9月以前からおこなっている
SDGsウォッシュかどうかをより簡単に見極める方法があります。その活動自体が2015年9月以前からおこなわれているものかどうかをチェックしてみましょう。
もちろん、以前からおこなわれている取り組みをSDGsの取り組みと紐付けること自体が悪いわけではありません。しかし、 2015年9月のSDGsが採択されたことで生まれた取り組みであるかどうかは、重要なチェックポイントと言えるでしょう。
SDGsウォッシュの事例
実際にSDGsウォッシュとみなされた企業の事例をご紹介しましょう。
ナイキ
世界的に有名なスポーツブランドNIKE(ナイキ)は、サッカーボールを縫製する子どもの写真が雑誌に載せられたことから、児童労働問題として波紋を呼ぶことになりました。
現在ナイキは持続可能な素材の利用でSDGsに取り組んでいるとアピールしています。(https://www.nike.com/jp/sustainability)そのため、実際に子どもの写真が露出したのは1996年ですが、SDGsが取り沙汰されるようになってからSDGsに反する企業、SDGsウォッシュ企業の一例として挙げられることが多いです。
3大メガバンク
3大メガバンクと呼ばれるみずほ・三菱UFJ・三井住友は、国内の石炭火力開発事業者に対して多額の融資をしているという報告があります。
SDGsには目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」があり、この目標を実現するには再生可能なエネルギーに移行させていくことや、気候を変動させる温室効果ガスの排出量削減などが求められます。しかし石炭は有限の資源である上に、温室効果ガスの発生源とも言われており、石炭火力発電を積極的に支援することはSDGsに反しているとみなされるでしょう。
みずほ・三菱UFJ・三井住友の3行はSDGsに取り組んでいる証として、社員はSDGsバッジを身につけています。加えて三菱UFJとみずほは石炭火力発電への融資は控えるという旨の表明をしたものの、進行中の融資については継続するとしており、その矛盾がSDGsウォッシュだと批判されているのです。
日本がそもそもSDGsウォッシュ?
国連加盟国からは、日本という国自体がSDGsウォッシュだと批判を浴びています。
2018年に「海洋プラスチック憲章」に署名しなかったことで、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に協力しない国として批判を受けました。上記のメガバンクの事例もあり、グローバルな視点で見ると日本は先進国の中でもSDGsウォッシュと認識されてしまっているようです。
今後いかに名誉を挽回していくかが問われるでしょう。
SDGsウォッシュといわれないためには?
自社の取り組みがSDGsウォッシュと言われないようにするためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか。SDGsウォッシュにならないようにするコツをお伝えします。
SDGs導入指南「SDGコンパス」
企業がSDGsへの達成を管理するための指標として、「SDGコンパス」が設けられました。企業がSDGsを達成するのに役立つ指針を5つのステップにまとめています。
1ステップ目でSDGsの理解に努め、2ステップ目で自社で優先する課題を決定します。3ステップ目で自社独自の目標を設定し、4ステップ目で経営に組み込み、5ステップ目で目標に対する進捗報告と達成度についてコミュニケーションをとる、という流れです。
SDGコンパスは国連グローバル・コンパクトをはじめとする3つの国際団体によって、大規模な多国籍企業を想定して作られました。原文の英語バージョンは30ページにもわたり、Web上で無料で公開されています。
重要なのはSDGsへの貢献に対する本気度
SDGコンパスに明言されている3ステップ目の「目標設定」では、「意欲的な目標」を設定することが望ましいとされています。
繰り返しになりますが、自社の取り組みにSDGsの目標を紐づけること自体は問題ありません。紐づけただけで足を止めてしまっていると、SDGsウォッシュとして批判の対象となる可能性があるのです。
具体的、計量的で、且つ期限が設定されている持続可能性のある目標を設定することで、SDGs達成に対する想いの強さをアピールしてみるといいでしょう。実際に自社の取り組みの結果につながりやすくなりますし、その熱量が高く評価されるはずです。
まとめ
SDGsウォッシュについて、基本的な意味から実例、気をつけるべきポイントまでまとめました。
中には意図的にSDGsウォッシュといわれる取り組みをしている企業もあるかもしれませんが、大半が準備不足のために足を止めてしまい、知らず知らずのうちにSDGsウォッシュと言われる事態になることが多いようです。
SDGsウォッシュとみなされ企業の信頼性を失うことのないように、SDGコンパスの力を借りながら自社の取り組みでSDGsを達成していきましょう。