事業を行う上で、様々な制度について理解を深めるのは重要です。特にクーリングオフ制度は消費者の権利を守るための制度であり、事業者側もしっかりと把握しておく必要があります。今回は、
- クーリングオフとはどのような制度なのか
- クーリングオフが実際に適用できる事例とできない事例
- 具体的に消費者が行う手続き方法
について、事例を挙げながらご紹介します。事業や経営を行う際の参考にしてみてください。
クーリングオフとは?
「クーリングオフ」という言葉を聞いたことがあっても、実際にどのような内容の制度なのかは知らないという方も多いのではないでしょうか?まず、クーリングオフについて解説していきましょう。
クーリングオフは消費者のための制度
クーリングオフとは、一定の条件に当てはまる場合、消費者が一度交わした契約を解除できる制度です。基本的に事業者ではなく、消費者向けの制度になります。
一般的に事業者と契約を結ぶ際には、一度交わした契約は破棄できません。しかし、事業者側が訪問販売やネットワークビジネスなどによって一方的にいきなり契約を勧めたり、消費者の理解が及ばないにも関わらず契約させたりした場合は別です。
- 訪問販売(キャッチセールス)
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引(ネットワークビジネス、マルチ商法)
- 業務提供誘引販売取引(モニター商法)
- 訪問購入
- 特定継続的役務提供契約(エステサロン、パソコン教室など)
上記に当てはまる場合は事業者と消費者の立場が対等ではありません。契約が不当に交わされた可能性が考えられるため、消費者はクーリングオフ制度を行使して一度結んだ契約を破棄できます。
クーリングオフで設けられているのは、熟考の余地がなく突然に契約を交わしてしまった消費者が、契約について冷静に考え直すための期間と言えます。
期間は取引形態によって変わる
消費者が制度を行使できる期間は、契約を交わした事業者の取引形態によっても変わります。
- 訪問販売…8日間
- 電話勧誘販売…8日間
- 連鎖販売取引…20日間
- 業務提供誘引販売取引…20日間
- 訪問購入…8日間
- 特定継続的役務提供…8日間
契約書面を受け取った日を含めて、上記の期間以内なら契約破棄が可能です。ただし、通信販売や自分で足を運んで購入した商品については適用されません。
事業者はキャンセル料などを一切請求できない
消費者から手続きがあった場合、事業者は消費者に対してキャンセル料や違約金などの請求はできない決まりになっています。
基本的にクーリングオフ制度は消費者の権利を守る制度です。期間内に解除された契約に関しては、一切の違約金や損害賠償を負担せずに行えます。事業者が違約金や各種キャンセル料などを請求すると違法になってしまうため、注意が必要です。
クーリングオフが適用される・されない事例
それでは、実際に事例を挙げながら、適用される場合と適用されない場合についてご紹介します。
電話での口頭契約を解約したい
電話で口頭によって契約を交わしてしまったけれど、電話を切った後にやはり解約したいと思ったという事例はよくあります。この場合、再び電話をかけて契約解除を求めたとしても、クーリングオフができないと言われてしまうケースがあります。
しかし、電話勧誘販売の契約書や申込書などが自宅に届いてから8日間以内の期間であれば、キャンセルは可能になります。
無理やり脅しを受けて契約してしまった
訪問販売は突然やってきます。自宅に招き入れてしまうと、契約を結ぶまで帰らない業者も中にはいます。このような場合も、期間内であれば問題ありません。
また、仮に「解約したらキャンセル料や損害賠償を請求する」といった不当な脅しを受けた場合は、クーリングオフの妨害に当てはまるため違法行為になります。この場合、適用期間が過ぎていたとしても、消費者は契約を解除できます。
勧められて商品をその場で開封した
化粧品などの訪問販売の場合、販売員に勧められて商品を開封してしまうケースもよくあります。一度商品を開封してしまった場合でも、販売員が誘導した結果開封してしまったのであればキャンセル可能です。
ただし、勧められて強制的に開封した時のみであり、自分の意思で商品を開封した場合には当てはまらないため、注意が必要です。
マルチ商法の契約書が20日以内に届かない
契約後にマルチ商法だと気が付いて解約したいけれど、契約書が届かないまま20日間が経過してしまった場合はどうなるのでしょうか?
クーリングオフが可能なのは、契約書を書面で受け取ってからの期間なので、契約書が発行されていない、あるいは不備がある場合は期間に関係なく適用できます。
購入後に商品を使ってしまった
消耗品にあたる商品を購入後、商品を使ってしまったがやはり解約したい、というケースは適用外になります。ただし、使ったのが一部の商品であり、使っていないセットもあるのであれば、開封していない分は適用されます。
通信販売の場合
通信販売は、自発的に商品を選び購入しているため、基本的に制度の適用外になります。ただし、事業者が定めた返品特約に従った上での返品は可能です。
クーリングオフの手続き方法
クーリングオフの手続きを行う方法をご紹介します。
必ず書面で適用期間内に通知を行う
クーリングオフの手続きは基本的に、書面で通知を行います。ハガキで書かれる場合が多いです。きちんと書面で通知したという証拠を残すため、送る前にハガキの両面をコピーして保管しておく必要があります。
また、ハガキは記録に残る方法で送る必要があります。「特定記録郵便」か「簡易書留」を利用して通知を行います。また、契約破棄は書面を消費者が発信した時から効力を発揮するため、期間内の消印が付けば実際に事業者に届くのが期間以降でも適用されます。
自発的に商品を返却せず業者に引き取らせる
クーリングオフをする場合は、消費者が自発的に返品を行う必要はなく、事業者に商品を引き取らせることができます。消費者は無条件で解約状態となり、契約前の状態になるからです。
消費者を契約前の状態まで戻すためにかかる費用や手間は、すべて事業者が負担する決まりになっています。着払いでの返送も可能で、既に契約の際に支払ってしまった代金も全額返金されます。
クレジット契約の場合はクレジット会社と販売会社へ通知する
クレジット支払いなどによって商品の購入契約を結んだ場合は、事業者だけでなくクレジット会社にも同様の書面を通知します。既に支払いを行っていた場合も、クーリングオフが適用されたらその分の代金は戻ってきます。
まとめ
クーリングオフ制度とは、唐突な訪問や勧誘による契約の場合、一度契約を結んだ後も一定期間内であれば契約を破棄・解除できる仕組みです。消費者の権利を守るために決められている制度であり、事業者側もしっかりと理解しておきましょう。
クーリングオフは適用される場合とそうでない場合が明確に定められており、条件が整っている場合、事業者は解約を妨害できません。また、条件を満たして正しく適用された場合、返品や返金はすべて事業者側の負担となります。
契約破棄や解約は、基本的に書面の通知で行われます。書面は消費者が発信した時から効力を発揮するため、事業者に期間内に届かなかった場合も、消印が付いた日が期間内であれば解約が認められます。
事業者側も消費者側も互いに制度を正しく理解し、不要なトラブルを事前に防ぐことが大切です。